
Particleの「Tachyon」は、Qualcomm QCM6490(Snapdragon 778G相当)を搭載し、5G通信・12TOPS NPU・バッテリー運用をRaspberry Piサイズに凝縮したSBCです。アンテナ内蔵でフィールド展開に強く、249ドルからという価格設定も魅力的です。
Particleの「Tachyon」は、Qualcomm QCM6490(Snapdragon 778G相当)を搭載し、5G通信・12TOPS NPU・バッテリー運用をRaspberry Piサイズに凝縮したSBCです。
「スマホの中身をラズパイの形に詰め込んだ」と表現されるとおり、セルラー用とWi-Fi用のアンテナまで基板に内蔵しているのが特徴です。外付けモデムやアンテナ配線なしでフィールド展開できる点は、屋外PoCを考えるエンジニアにとって大きな魅力でしょう。
価格は249ドル(約37,000円)から。HDMIや有線LANを削って5Gとバッテリーに振り切った設計なので、「現地に置く端末」を作りたい人に刺さる製品です。
スペック

| ■ Particle Tachyon | |
|---|---|
| SoC | Qualcomm QCM6490(Kryo 670 8コア、最大2.7GHz) |
| GPU | Adreno 643L |
| NPU | Hexagon 770(12 TOPS) |
| メモリ | 4GB / 8GB LPDDR5 |
| ストレージ | 64GB / 128GB UFS内蔵、microSDスロット |
| ネットワーク | 5G Sub-6(eSIM内蔵)、Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2 |
| 映像出力 | USB-C(DisplayPort Alt Mode、4K@60Hz) |
| カメラ入力 | MIPI CSI 4レーン×2(22ピン 0.5mm) |
| USB | USB-C 3.1(PD/DP対応)、USB-C 2.0 |
| 拡張 | 40ピンGPIO(RPi互換)、PCIe Gen3 x1、Qwiic |
| 電源 | USB-C PD、Li-Poバッテリー(JST-PH) |
| サイズ | 85×56×18.5mm / 55g |
| OS | Ubuntu 20.04/24.04、Android 13 |
| 付属品 | バッテリー(3100mAh)、オーディオボード |
5G Sub-6モデム・12TOPS NPU・Wi-Fi 6E・バッテリー管理回路を、Raspberry Piと同じ85×56mm基板に凝縮した5G対応SBCです。
特徴
SoC・CPUとNPU
Tachyonの心臓部はQualcomm QCM6490です。これはSnapdragon 778G/778G+とほぼ同等のシリコンで、6nmプロセス製造のオクタコアプロセッサですね。
CPUコアは「Kryo 670」アーキテクチャで、以下の3クラスタ構成となっています。
- プライムコア(1基): Cortex-A78ベース @ 2.7GHz
- パフォーマンスコア(3基): Cortex-A78ベース @ 2.4GHz
- 高効率コア(4基): Cortex-A55ベース @ 1.9GHz
SBC界隈で最強クラスと言われるRockchip RK3588(Cortex-A76×4 + A55×4)と比較しても、アーキテクチャ世代(A78 vs A76)とクロック周波数の両面で優位に立っています。シングルスレッド性能ではRaspberry Pi 5やOrange Pi 5を確実に上回る水準で、コンテナを複数動かしたり、通信と推論を同時に走らせたりする用途に向いています。
NPUはHexagon 770 DSPで、12 TOPSの演算性能を持っています。Raspberry Pi 5はNPU非搭載(AI Kitで13TOPSを追加可能)、RK3588内蔵NPUは6TOPSなので、Tachyonは「標準状態で」競合の倍近いAI推論性能を持っている計算です。カメラ2台からの高解像度映像を取り込みながらAIモデルを実行できる、と公式も謳っており、監視カメラやロボティクス用途でのポテンシャルは高そうです。
ただし、QualcommのAIアクセラレータを活用するには「Qualcomm AI Engine Direct SDK(QNN SDK)」が必要で、Ubuntu向けの導入には手動でのインストールやパス設定が必要になるようです。Raspberry Piの「apt install」一発で環境が整う手軽さと比べると、まだ開発者向けの荒削りな部分が残っています。
5G通信(これが本機の真骨頂)
Tachyonが他のSBCと決定的に異なるのは、5G通信モジュールを標準で内蔵している点です。基板裏面にはQuectel製の5G対応スマートモジュール「SG560D」シリーズが実装されており、これがQCM6490 SoCを内包するSiP構造となっています。
- 5G Sub-6GHz対応: 下り最大2.5Gbpsの高速通信が可能
- アンテナ内蔵: セルラー用とWi-Fi用のアンテナを基板上に内蔵。外部アンテナをぶら下げる「スパゲッティ配線」が不要
- eSIM(EtherSIM)搭載: 世界40カ国以上で電源を入れるだけで繋がる体験を提供
通常のSBCでLTEを使う場合、モデムHATを積んで外部アンテナを配線する必要がありますが、Tachyonなら箱から出して電源を入れるだけで繋がります。フィールド展開時の故障リスクを減らす意味でも、この一体型設計は強力なメリットですね。
北米向け(NA)とその他地域(RoW)の2バリアントがあり、日本も対応国リストに含まれています。Particleのデータプランとして月額999円のプランも提示されているため、日本での運用も視野に入っています。
電源・バッテリー
スマホ由来のチップセットなので、バッテリー運用との相性が抜群です。ボード上には3ピンのJST-PHバッテリーコネクタがあり、3.7V Li-Poバッテリーを直接接続できます。製品には3100mAhのバッテリーが同梱されているため、追加購入なしでモバイル運用を開始できるのはうれしいポイントです。
充電回路も内蔵されているため、USB-Cで給電しながらのUPS運用や、ソーラーパネルと組み合わせた完全オフグリッド運用も容易に構築できます。
電源入力は3系統あります。
- USB1(主USB-C): USB PD対応、9V/3A推奨
- 40ピンヘッダ5V入力: 最低5A必要。不足するとブラウンアウトのリスクあり。ヘッダ給電時はUSB1機能を失う
- Li-Poバッテリー: 3.7V、JST-PHコネクタ
ヘッダ給電だとUSB1機能を失うという注意は、設計段階で電源系のアーキテクチャを決め打ちする必要があることを意味します。逆に、こういった注意点が公式で明記されているのは助かりますね。
熱設計はファンレス動作を想定しており、基板裏面のRFシールドがヒートスプレッダを兼ねています。動作温度は-17〜+65℃、-20〜+70℃でサーマルシャットダウンと記載されています。
ストレージ・ブート
オンボードは64GB/128GB UFSで、公式は「OSは内部フラッシュに保存、SDカードは追加ストレージ用途」と説明しています。microSDを起動ドライブにしないのは、寿命や速度の悩みが出にくくて良い設計ですね。
PCIe経由のNVMe拡張にも対応しています。専用のフレキシブルケーブル用コネクタでPCIe Gen3 x1を引き出せるため、NVMe HATなどを介してSSDを接続可能です。
拡張(ラズパイ互換だが「罠」に注意)
ここがTachyonの最も注意すべきポイントです。「Raspberry Piフォームファクタ」を謳っていますが、コネクタ仕様には独自の変更が加えられています。
**カメラ/ディスプレイ端子(CSI/DSI)**が最大の「罠」です。TachyonのCSI/DSIコネクタは22ピン 0.5mmピッチを採用しています。Raspberry Pi(Zero系を除く)で一般的な「15ピン 1.0mmピッチ」のリボンケーブルは物理的に刺さりません。手持ちのラズパイカメラを流用しようと考えている人は、変換ケーブルや対応状況の確認が必要です。
GPIOはRaspberry Pi互換の40ピンヘッダを搭載していますが、電圧は1.8V/3.3V系であり、5Vトレラントではありません。古い5V系のHATやセンサーを直結すると即座に破損するリスクがあるため、レベルシフタが必要です。
映像出力はHDMI端子がありません。USB-C(DisplayPort Alt Mode)で4K@60Hzまで対応しますが、古いHDMIモニターを使うには変換アダプタが必須です。
技適について
日本国内で使用する場合、最も気になるのが技適です。
Tachyonに搭載されているQuectel SG560Dモジュール自体は、日本の主要キャリア(Softbank、KDDI、Docomo)の認証を取得済みとの情報があります。また、Particle公式サイトの対応国リストに「Japan」が含まれており、月額999円のデータプランも提示されています。
ただし、SBCとして日本で適法に使うには、製品本体に技適マークが必要です。実機でのマーク確認までは「未確認」とします。購入時は「ROW(Rest of World)」版を選択し、届いたら必ず裏面やパッケージのマークを確認しましょう。
外観
基板表面には、Raspberry Pi互換の40ピンGPIOヘッダ、USB-Cポート×2、MIPI CSI/DSIコネクタが配置されています。大きなチップやモジュールが見当たらずスッキリしているのは、主要部品が裏面に実装されているためです。
裏面にはSoC(QCM6490/SG560D)やメモリ、ストレージ、電源管理ICなどが実装され、RFシールドで覆われています。このシールドが放熱板の役割も果たしています。
まとめ
Particle Tachyonは、「スマホ級SoC+5G+12TOPS NPU」をRaspberry Pi 5フォームファクタに押し込んだ、かなり尖ったSBCです。HDMIや有線LANを削り、5G・バッテリー・eSIMに振り切っているので、机上のNAS用途というより「現地に置く端末」を作りたい人に刺さります。
5Gで遠隔地に置くゲートウェイ、カメラ+推論を絡めたエッジAI端末、NVMeでログを溜めるフィールドデバイスなど、「Wi-Fiがない場所でAI処理とクラウド通信を行いたい」用途にはぴったりです。アンテナ内蔵・配線不要・防水ケースに入れやすい一体型設計の価値は、現場でPoCを行うエンジニアにとって計り知れません。
一方で、HDMIがないためデスクトップ用途には不向き、CSI/DSIコネクタがRaspberry Pi標準と非互換、GPIOが5Vトレラントでないなど、「ラズパイの置き換え」として考えると罠があります。手持ちの周辺機器をそのまま流用できるかは事前確認が必要です。
| 販売元 | 価格(参考) |
|---|---|
| 公式ストア(4GB/64GB) | $249(約37,000円) |
| 公式ストア(8GB/128GB) | $299(約45,000円) |
※日本への送料は別途かかります。