
Orange Piから、Ky X1(SpacemiT K1相当)搭載の「Orange Pi RV2」が登場。RISC-V Vector 1.0対応の8コアCPU、2 TOPS NPU、デュアルGbE、M.2 NVMe×2を100ドル未満で実現した、RISC-V開発者向けSBCです。
2025年3月、Orange Pi(Shenzhen Xunlong Software)から「Orange Pi RV2」が発表されました。8コア 64-bit RISC-VプロセッサのKy X1を搭載し、2 TOPS NPU、デュアルGbE、M.2 NVMeスロット×2という構成を、100ドル未満という価格帯で実現しています。
RISC-V SBC市場はここ数年で急速に拡大していますが、これまでの製品は主に教育・研究用途に留まっていました。シングルコアだったり、ドラフト版のVector Extensionしか対応していなかったりと、実用面では課題が多かったですね。Orange Pi RV2は、その流れを変える存在になりそうです。RISC-V Vector Extension 1.0(RVV 1.0)への対応、8コアCPU、そしてUbuntu 24.04の公式サポートにより、RISC-V開発機として実用的なレベルに達しています。
一方で、メインラインカーネル未対応という課題もあり、Raspberry Piの代替というより「RISC-Vを本格的に触りたい開発者向け」の位置づけです。デスクトップ用途を期待すると肩透かしを食らう可能性がありますが、ルーターやNAS、エッジAIの実験機として捉えるなら、かなり魅力的な選択肢ですね。
スペック

| ■ Orange Pi RV2 | |
|---|---|
| SoC | Ky X1(SpacemiT K1相当、8コア 64-bit RISC-V、最大1.6GHz) |
| Vector Extension | RISC-V Vector 1.0(VLEN=256bit) |
| NPU | 2 TOPS AIアクセラレータ(INT8) |
| GPU | Imagination BXE-2-32 |
| メモリ | 2GB・4GB・8GB LPDDR4X(オンボード) |
| ストレージ | microSD・eMMC(モジュール)・M.2 NVMe |
| M.2 | M-Key×2(PCIe 2.0) |
| 映像出力 | HDMI 2.0(1920×1440@60Hz) |
| カメラ入力 | MIPI CSI×2 |
| 有線ネットワーク | GbE×2(Motorcomm YT8531C) |
| 無線 | Wi-Fi 5・Bluetooth 5(AP6256、技適未確認) |
| USB | USB 3.0×3・USB 2.0×1 |
| GPIO | 26ピン(I2C・SPI・UART・PWM) |
| 電源 | USB-C給電(推奨電源は未確認) |
| SPI Flash | 16MB(NVMeブート用ブートローダー格納) |
| サイズ | 89×56mm |
| OS | Ubuntu 24.04・OpenWrt(公式サポート) |
8コアRISC-V(RVV 1.0対応)と2 TOPS NPUを、デュアルGbEとM.2 NVMeスロット×2を備えた89×56mmの基板に搭載した、RISC-V開発者向けSBCです。
特徴
SoC・CPUとRISC-V Vector Extension
Orange Pi RV2の核となるのは、Ky X1の8コア 64-bit RISC-V CPUです。ここで重要なのが、Ky X1はSpacemiT社の「Key Stone K1」のリブランドである可能性が高いという点です。Linuxカーネルのデバイスツリー定義がSpacemiT K1と共有されており、CPUコア構成(X60 8コア)、キャッシュ階層(L1 32KB×2 + L2 512KB)、NPU性能(2 TOPS)が完全に一致しています。
この事実は購入検討において非常に重要です。「Ky X1」で検索しても情報が乏しい場合は、「SpacemiT K1」で検索するとデータシートやメインラインLinuxへのアップストリーム状況を追跡できます。SpacemiT K1として見れば、レジスタマップやドライバ開発の参考情報を得やすくなりますね。
CPUコアのSpacemiT X60は、RISC-Vの標準的な64ビットISA(RV64GCVB)に準拠しています。特筆すべきはRISC-V Vector Extension 1.0(RVV 1.0)への対応で、VLEN=256ビットのベクトルレジスタを備えています。これまでのRISC-V SBC(Allwinner D1やStarFive JH7110搭載機)はドラフト版のRVV 0.7.1に基づいており、正式規格とバイナリ互換性がありませんでした。RVV 1.0対応により、GCCやLLVMなどメインストリームコンパイラが標準でサポートするSIMD最適化の恩恵を受けられます。OpenCVや機械学習ライブラリのビルドがスムーズになりますし、特別なパッチなしで高速化が期待できますね。
性能感については、Geekbench 6(Linux RISC-V)の公開結果で輪郭が見えます。Orange Pi RV2(Ubuntu 24.04.2 LTS、ベース周波数1.60GHz)でSingle 132、Multi 555というスコアが確認されています。Phoronixのレビューでは「旧世代のRaspberry Pi級の性能には届かないが、これまでのRISC-V SBCよりはずっと良い」「Ubuntu 24.04の公式イメージで短時間に立ち上がる」と評価されています。
用途としては、「RISC-Vを触る・ビルドする・ネットワーク寄りの軽サーバーを試す」が現実的で、Raspberry Pi 5代替の万能SBCというより「RISC-V開発機として普通に使える価格帯に降りてきた」枠ですね。動作周波数は1.6GHz程度ですが、放熱設計次第ではSpacemiT K1の仕様上限(最大1.8〜2.0GHz)に近づける余地があるかもしれません。
もう一点大事なのがカーネルの成熟度。Phoronixは「Ky X1/Orange Pi RV2はメインラインカーネル未対応」と明記しており、当面はベンダーカーネル(Linux 6.6派生)前提になりそうです。Linux 6.18-rc1あたりでSpacemiT K1の基本的なサポート(タイマー、割り込みコントローラ、UART等)がマージされ始めているので、将来的にはメインラインでの動作も期待できますが、現時点では公式配布イメージの更新頻度を追いかけるのが無難でしょう。
NPU・AI性能
2 TOPS(INT8)のNPUを内蔵しており、エッジAI推論に対応しています。Google Coral USB Accelerator(4 TOPS)の半分程度ですが、YOLOv5・YOLOv8 Nanoモデル程度の軽量物体検出や音声認識には十分対応できる範囲です。SpacemiTはTFLiteやONNXモデルをNPU向けに変換するツールチェーンを提供しており、CPU負荷を抑えつつリアルタイムに近い推論速度を実現可能です。
競合で言うと、Raspberry Pi 5+Hailo-8L(13 TOPS)やOrange Pi AIシリーズ(6 TOPS級)といった選択肢もあります。ただしOrange Pi RV2は「ボード単体でNPU・ISP・デュアルカメラ入力がまとまっている」点が差別化ポイントで、外付けアクセラレータを買い足さなくてもビジョンAIを始められますね。
RVV 1.0対応と組み合わせることで、NPUを使わないCPU推論でも従来のRISC-V機より高速に処理できる可能性があります。監視カメラとの組み合わせや簡易的な音声認識など、エッジAI入門用途として面白い選択肢になりそうです。
メモリとストレージ
メモリは2GB・4GB・8GBのLPDDR4X構成で、オンボード実装のため後からの増設はできません。データバス幅は32ビット、2666Mbpsの転送速度をサポート。開発用途やサーバー運用を想定するなら、コンパイルやDockerコンテナ複数運用でスワップを避けるため、8GBモデルがおすすめです。
ストレージは、microSDに加えてeMMCモジュールとM.2 NVMe SSD(M-Key×2、PCIe 2.0 x2接続)に対応。PCIe 2.0 x2の理論帯域は1GB/sで、実測では700〜800MB/s程度のシーケンシャル速度が期待できます。RISC-V SBCでNVMeが2スロット使えるのはかなりうれしいポイントで、microSD運用の「遅い・壊れやすい」問題を回避できます。
NVMeブートを使いたい場合は、基板上の16MB SPI NOR Flashにブートローダー(U-Boot)を書き込む必要があります。SoCのブートROMはSDカードやeMMC、SPI Flashを順に検索する仕様なので、ここにブートローダーを格納すればSDカードなしでNVMe起動が可能になります。公式のUbuntuイメージで起動後、orangepi-config等のツールでSPI Flashを更新するのが一般的な手順ですね。
ただし、M.2スロットのPCIeレーン共有条件については公式情報で確認できていません。NVMe 2枚刺しを狙う場合は実機レポート待ちが無難でしょう。
外観

基板上面。中央にKy X1 SoC、右側に無線モジュール
基板上面には中央にKy X1 SoC、右側にWi-Fi・Bluetoothモジュール(AP6256)が配置されています。左側には「M.2 KEY M」のシルク印刷があり、NVMe用スロットの存在がわかります。上辺にはUSB-Aポートと有線LANコネクタがまとまっており、配線の取り回しはしやすそうです。

基板下面。eMMC用コネクタと四隅の取付穴
基板下面は部品点数が比較的少なく、中央付近にeMMC用コネクタのシルクが見えます。四隅に取付穴があり、ケースやスタンドオフへの固定は容易でしょう。基板サイズは89×56mmで、Raspberry Piとほぼ同じフォームファクタです。

ポート面。デュアルGbE、USB 3.0×3、HDMI、USB-C電源
有線LANが2ポート並んでいるのが印象的です。USB 3.0ポート(青)も3基搭載されており、ストレージやカメラなど複数のUSBデバイスを接続できます。端面にはHDMI出力とUSB-C電源端子があり、デスクトップ用途にも対応可能な構成です。
その他
ネットワーク
デュアルGbE(Motorcomm YT8531C×2)はこのクラスのSBCとしてはかなり魅力的で、ソフトウェアルーターやNAS用途を想定する人に刺さりますね。一方をWAN、もう一方をLANに割り当てて物理的にネットワークを分離したゲートウェイを構築したり、管理用・データ用で分離する運用もしやすくなります。OpenWrtの公式イメージも提供されており、即座にルーターとして稼働させることも可能です。
無線はWi-Fi 5(AP6256モジュール)とBluetooth 5を搭載していますが、日本での技適取得状況は未確認です。AP6256モジュール自体はTELEC認証を取得しているという情報もありますが、最終製品としてのOrange Pi RV2に技適マークが表示されているかは確認できていません。日本国内で電波を発射する場合は電波法の問題があるため、実運用では有線LANを前提にするか、技適取得済みのUSBドングルを使用するのが安全策になります。総務省の「特例制度」(180日間の実験利用)を活用する手もありますね。
電源・熱設計
USB-C給電に対応していますが、推奨電源(5V/何A)の公式情報は確認できていません。USB PD非対応のため、PD対応充電器(MacBook用など)を接続しても5Vが出力されず起動しない場合があります。シンプルな5V/3A以上のACアダプタと、短めで品質の良いケーブルを用意するのが無難です。NVMeやUSB 3.0デバイスを複数接続する場合は5V/5A程度あると安心ですね。
ヒートシンクの同梱有無やファン端子の存在も公式情報では未確認。22nmプロセスで製造されたKy X1はアイドル時3〜4W程度と電力効率に優れていますが、8コアすべてに負荷をかけた場合やNPU/GPUを酷使する場合は発熱が増大し、サーマルスロットリングが発生する可能性があります。公式には5Vファン用端子の記載があるため、長時間高負荷運用を行う場合はアクティブクーリングが推奨です。ベンチマークや常時稼働(NAS/ルーター)を想定するなら、小型ヒートシンクの追加を前提に考えておくと良いですね。
GPIO・拡張
GPIOは26ピンヘッダーで、I2C・SPI・UART・PWMに対応。ただし、Raspberry Piの40ピンとは互換性がないため、市販のHAT(拡張基板)は物理的に装着できないか、電気的に互換性がありません。電子工作で使う場合はジャンパワイヤによる手動結線と、デバイスツリーオーバーレイ(dtbo)によるピン機能の再定義が必要になります。GPIO電圧(3.3V/5V耐性など)は公式情報で確認できていないため、センサー接続時は事前にピン定義を確認することをおすすめします。
ソフトウェア・カーネル成熟度
Ubuntu 24.04が公式サポートされており、Linux 6.6ベースのベンダーカーネルで動作します。CanonicalがOrange Pi RV2向けのデベロッパーイメージ提供をアナウンスしており、セットアップの敷居は比較的低いでしょう。GPU(Imagination BXE-2-32)のドライバサポート状況が気になるところですが、動画再生(YouTube等)はCPUソフトウェアデコードに依存する場面が多くなりそうです。
メインラインカーネルへの取り込みはLinux 6.18あたりから始まっており、将来的には「普通のLinux」としてDebianやFedoraの標準イメージが動作する日が来ることが期待されます。ただし現時点では、公式配布イメージの更新頻度と周辺機能(Wi-Fi・HDMI・PCIe・NVMe)の有効化状況を追いかけるのがおすすめです。
まとめ
Orange Pi RV2は、8コアRISC-V(RVV 1.0対応)とデュアルGbE、M.2 NVMeスロット×2という魅力的な構成を100ドル未満で実現したSBCです。Phoronixによると8GBモデルが約64ドル、2GB/4GBモデルはより安価とのこと。まぁ円安えげつない…とはいえ、このクラスのRISC-V SBCとしてはかなり現実的な値付けですね。
RISC-V Vector Extension 1.0への対応により、ソフトウェアエコシステムとの親和性も高く、RISC-V開発機として現実的な選択肢になっています。SpacemiT K1として情報を追えばデータシートやメインライン対応状況も把握しやすいです。
RISC-Vアーキテクチャを本格的に学びたい開発者や、RVV 1.0を用いた最適化・テストを行いたいエンジニアには、低コストで導入できる実験機として最適です。また、NPUとRISC-Vを組み合わせたエッジAIプロトタイピングや、自作のルーター・NAS・CI/CDランナー構築を考えているホビイストにも刺さる一台でしょう。
一方で、Raspberry Piの完全代替やデスクトップ用途を求める人には、ソフトウェア成熟度の面で不向きです。また、40ピンGPIO互換性やメインラインカーネルによる長期サポートを重視する人、そして日本国内でWi-Fiを常用したい人(技適未確認のため)にとっても、ハードルが高い選択肢となります。
| 販売元 | 価格(参考) |
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